経済人のコラム 時局寸評
「シン・無尽」~繋がりを創造する場~
はじめに
山梨経済同友会は、2023年8月長崎幸太郎知事に対して、目指す将来のあるべき山梨の姿「シン・ヤマナシ実現に向けて」を提言致しました。その際のポイントは、”自分達の持つ県民特性をしっかりと踏まえた上で、実効性の高い方向性を打ち出す”事でした。この討論の中では、現在も様々な役割を担っている生活文化『無尽』の功罪を分析し、より良い方向に導く事の有益性に意義を見い出しました。
1.無尽とは
改めて『無尽』という生活文化をひも解くと、諸説ありますが鎌倉時代に始まった庶民同士の融資制度で、「冠婚葬祭などまとまったお金が必要になった時、皆で定期的に積み立てた掛け金から融通し、お互いを助け合う為に作られた。」との定義が一般的なものになります。時代が進むにつれて金融面の機能が薄れていく反面、山梨ではコミュニケーションの場として根強く残り、集いの場が一時的に失われたコロナ禍を乗り越えて、今も脈々と続いております。
2.現在の山梨における無尽
実際には、『無尽会承ります』の看板が様々な飲食店に見られるほど生活に溶け込んでおり、金融以外の目的で継続されている”飲み無尽”が主流となって、繋がりの強い山梨の県民性を支える生活文化として残っています。
コロナ禍の2020年6月には、宴会がなくなってしまった飲食店救済の為、『無尽でお助け!みんなで100億円キャンペーン』を山梨県主催で実施するなど、行政までもが密接に入り込む山梨の生活インフラとなっている現状は、他県からは想像も出来ない独自性であると考えます。
3.無尽の功罪
全国で消滅しているにもかかわらず、ほぼ山梨県内だけに現存している無尽ですが、そこには一利一害が見られます。具体的には、『連帯感が生まれる』、『冠婚葬祭が盛り上がる』、『高齢になっても友達がいる』、『「無尽だから」といえば出掛けられる』等のメリットがあり、その結果県内に様々なコミュニティを形成。隣県からは『健康寿命日本一の要因』とも分析されております。
但し、もう一方で『同じ価値観を持つ者同士の集まりである為、その和を乱すことを恐れるあまり、すべてにおいて現状肯定志向が定着し、新たな芽が育つ経済土壌が、進化にくい風土を作り上げている。』とも見られております。本来、”助け合いの場”であったものが、残念ながら”もたれあいやしがらみの場”に留まっていると言えるのではないでしょうか。
4.無尽の新たな可能性
しかし、スマホでのコミュニケーションが一般化した今、『SNSは、現代人の繋がり志向を如実に反映しているが、投稿に対する「イイネ」は無尽の見守り行為であり、「イイネ」の追従は無尽のうなずき行為をリモート化したもの』、との専門家の見解があります。つまり、『無尽文化に触れていない若者層』と『無尽文化に浸っている熟年層』の繋がり志向の深層心理は、非常に近いと言えるのではないでしょうか。
何度も密度の濃い討論を重ねた「シン・ヤマナシ構築部会提言委員会」では、新たな時代の無尽を、新たな視点で、老若男女に呼びかけ、”人材と知恵の融通の場に格上げ”すれば、現状肯定や変化を好まない県民性からの脱却に繋がる可能性が高い、との結論に到達致しました。
5.「シン・無尽」の定義と提言
当会は、シン・ヤマナシのエコシステムを支えるエンハンス機能の重点施策として
この新たな無尽=『シン・無尽』を以下のものと定義致しました。
現代日本において山梨県内にほぼ唯一存続する生活文化『無尽』を
「同じ意見や価値観を持つもの同士のコミュニケーションの場』から
「違う意見や価値観を持つもの同士の化学反応の場」に昇華させ
この『シン・無尽』から発信するムーブメントにより
生産性の高い山梨の未来創造に繋げる。
6.現在進行中のアクション
この提言を踏まえて当会は、『シン・無尽部会』を立ち上げ、無尽の習慣のない若者が、『シン・ヤマナシ』の実現に向かっていけるよう勉強・意見交換・懇親の場を設定し、ポジティブに混ざり合っております。
数回実施の中では、居酒屋とホテルなど開催場所の違いで意見の混ざり具合に違いが出るなど、シャイな県民性が如実に表れておりますが、現代の若者目線意識しながらも、大人として無駄に迎合せず、明るい未来づくりをリードする山梨ならではの経済同友会像を目指して参りたいと夢を追っております。