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経済人のコラム 時局寸評

TOP 経済人のコラム(時局寸評) パラダイムの転換―経営環境の急激な変化に対応する経営革新の要件

パラダイムの転換―経営環境の急激な変化に対応する経営革新の要件

 近年の情報技術(IT)の飛躍的な発達、資源・エネルギー保護への関心の高まり、グローバル・スタンダードに押し切られた形での規制緩和の波は、経営を取り巻く環境の急速な変化として企業経営にいやおうなしに新しい経営スタイルの確立を促している。

現在進行中の社会、経済的な変化は、「情報技術」を核とした変化である。それらの変化が企業経営に与える影響は様々なものが考えられるが、最もインパクトの強い変化は「小規模企業弱者説の呪縛からの解放」であると考える。

「規模から領域」へ、「不変性から創造性」への転換
 現在指摘されている変化について、まず強調されなければならないのは、情報革命、IT 革命と呼ばれるものの本質が、コンピュータなどの情報機器の単なる道具としての使い勝手や便利さの進歩ではない、ということである。
人類が他の霊長類と袂を別った火の使用、農業社会から工業化社会への転機となって産業革命を誘発した蒸気機関の発明などと同様なインパクトを我々の社会にあたえるということを前提にしなければならない。
そのインパクトはまさに従来のパラダイムのコペルニクス的転換を求めるものである。
これまでの工業化社会において、経済性の基準は効率にあった。テーラーの科学的管理法に始まる「合理的な生産」の追求と、それを支える大量生産、大量販売の根底にある基本原理は、規模の経済性を前提としたコストの低減、すなわち経済効率の追求であったといえよう。
たしかに、市場経済が未熟な成長段階においては、効率の追求は経済発展にとって有効な手段であり、市場の要求にも合致したものであった。しかし、いまや「規模/コスト=効率」追求だけでは企業の存続と発展は望み得ない。
一つには経済的側面において、インターネットなどの情報通信技術の発展とネットワーク化によって、「規模/コスト=効率」が有効な競争手段として機能しなくなってきていることは昨今の現実が示しており、もう一つは、経済効率の視点に偏重した考え方へのアンチテーゼとして、環境、資源・エネルギー問題、企業の人間性、社会性などの社会的側面がクローズアップされ、効率一辺倒の追求が社会的要請と合致しなくなってきているのである。
これらの変化を端的に表現するとすれば、価値基準の「規模から領域へ、不変性から創造性」への転換であり、詳しく述べる紙幅は持たないが、端的に言えば次のような特徴を持つものと思われる。

(1)コスト・効率から戦略性・アジリティー(敏速性)を基盤とする戦略概念の転換
 情報化が高度に進んだ社会下の経営においては、コストとの関連だけで時間を考えるのではなく、市場すなわち顧客および競争への迅速な対応が強調される戦略性重視の考え方が必要となる。
たとえコストが高くても戦略的に必要とあればそちらを選択するという「時間」についての考え方である。
したがって、規模/コスト=効率の側面では不利だと思われてきた中小企業は、経営者および組織が優れた情報収集能力と分析力、それに裏付けられた先見性を持つことにより、大企業一般に対しても、アジリティーでは優位にたてる可能性があり、規模の呪縛から解き放たれることとなる。

(2)資本、労働から技術、知識へ
 コスト低減のための効率を中心に置いた大規模企業の優位性は、生産設備に多額の投資を必要とする一部の装置産業や、莫大な基礎研究開発費を必要とする産業分野においては今後も依然として一定の範囲において妥当性を持つであろうが、大多数の産業分野においては、技術、知識の点において規模による優劣はなくなってきている。
近年のベンチャー・ビジネス、社内ベンチャーの創造性への期待の高まりはその象徴であろう。効率を追求し、市場シェアーの拡大を目指してきた企業が、その規模が大きくなったが故に「大男、総身に知恵が回りかね」となり、経営課題のテーマの一つとしてナレッジ・マネジメントに重点を置かざるを得ない現実がある。この点からも小規模企業の不利は見出せない。

(3)規模的成長を前提とした存続から、革新の繰り返しによる存続へ
 ゴーイング・コンサーンの意味するところも再検討する必要がある。イノベーションが進展し、激しい競争が展開する産業社会において企業が生きる道は、単線的な規模的成長を前提とするものばかりとは限らない。規模的な拡大は伴わずとも、革新を繰り返すことによって市場の変化、競争への対応を行うことによる存続も考えられる。むしろ、変化の激しい高度情報化社会における生存のための適者は、太古の環境激変期と同様、自らの巨体をもてあまし環境変化に適応が遅れたステゴザウルスやマンモスではなくコックローチであるかもしれないのである。

企業経営は、以上のような企業環境の変化を前提に再構築されなければならない。