経済人のコラム 時局寸評
出る杭にエールを
東京から山梨に赴任してきて、まもなく1 年になる。今ではすっかり山梨ファンを自認している。
山紫水明の地、とは良く言ったもので、新宿からわずか1 時間半というのに、自然の美しさには言葉を要しない。この春は桃の花に酔い、つい最近は鈴なりになるさくらんぼの美しさに目を見張った。
また、最近でこそ知られるようになってきたが、山梨のミネラルウォーターは日本一の産出量を誇る。確かに、至る所に湧水があり、滝がある。水道水ですら美味しい。山梨は山国ではあるが、日本に誇る「水の国」である。
ところで、山梨の経済指標のうち、全国一を誇るものに「有効求人倍率」がある。求職者1 人に対していくつの働き口があるかを示す有効求人倍率は、長期間にわたって山梨県が第一位であった。昨年は、さしものIT 不況で、急速に低下したが、それでも全国1・2 位を争う水準にある。なぜ、山梨の有効求人倍率が全国一高いのか。
最近のスタッフの調査結果により、主として、求職者が人口対比極めて少なく全国最低レベルにあるため、ということが確認された。
では、なぜ職を求める人が少ないか、ということになる。そこにはいくつかの理由があるが、興味深いのは、事業所の新設率・廃業率、そして労働者の離職率ともに、山梨県は全国的に見て極めて低いという点である。
すなわち、山梨においては、過去から続いている事業は比較的そのまま残り、片や新規参入も少なく、したがって職を離れる人も少ないという構図である。要するに、雇用が流動化しにくい地域と言えるであろう。
こうした状況は、山梨の人と人とのつながりを重んじる風土と無縁ではなかろう。山梨に来て、うらやましく思い、かつ半ば驚くのは、多くの方が縁戚・同窓・無尽会などで、何重にも固く結びついておられることである。人情にも厚く、東京からの転勤者にも大変親切にして下さる。
でも片方では、社会は大きな変革の時代を迎えている。「このままで日本はいいのか」といった問いが常に投げかけられ、個々の企業も変革していかなければ生き残れないとの危機感が強い。
伝統的に人縁・地縁が濃いこの地域の企業がどのように変わっていくか、は極めて興味深い。山梨には、自然や水だけではなく、いいものがたくさん残っている。
多くの企業を訪れて感心するのは、ものづくりの技術・巧みの技、独特の経営理念やマーケティング手法、斬新なアイデア……、個々の企業が誇るべきものをたくさん持っていることである。したがって、元気の良い企業が多い。先述の人的ネットワーク自体も、山梨として誇れるものであろう。
あとはそうした中で、いかに他に先んじてイノベーティブなことをやっていくか、また周囲がそれをどうサポートしていくか、ということになるのではないか。
「出る杭を叩く」のではなく、「出る杭」にはエールを送りたいものである。