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経済人のコラム 時局寸評

TOP 経済人のコラム(時局寸評) ノーベル賞受賞に思う ―強みに集中、個性を磨く

ノーベル賞受賞に思う ―強みに集中、個性を磨く

2002 年のノーベル賞は、物理学が小柴昌俊 東京大学名誉教授に、化学が田中耕一 島津製作所主任と決まり、日本初のダブル受賞となった。これで日本人のノーベル賞受賞は3 年連続となり、しかも自然科学部門にはまだ多くの有能な候補者が多く控えており、2003 年以降も、朗報が続く可能性があるという。

デフレ不況からなかなか脱することが出来ず、株価下落や偽装表示問題などの暗い話題ばかりで、気が滅入っていたところに飛び込んできたビッグニュースに、日本中が沸き、自信喪失気味だった我々日本人を勇気づけてくれた。

小柴昌俊氏の業績は、関係者の間では既に高い評価を得ており、今年こそはという期待が高まっていたというが、田中耕一氏は全くの無名人で、本人も予期していない出来事だったようで、作業服姿のインタビューも、新鮮でさわやかだった。

田中氏の発明は、国内ではあまり評価をされず、研究成果の英文雑誌への発表では海外チームが選考したというが、ノーベル賞選考委員会は、蛋白質の質量分析の歴史を丁寧にたどって、島津製作所が最初であることを認めてくれたということである。

大学教授でもなく、博士号も持たない民間企業の研究所の主任さんという、ノーベル賞受賞者としては異例の肩書きが話題になったが、今も企業の研究所で信念を持って、コツコツと頑張っている全国の研究者達の、何よりの励みとなったことだろう。

島津製作所では、田中氏に特別報奨金を授与し、執行役員級の「フェロー」(最上位研究者)に昇格させ、「田中ノーベル賞記念研究所」をつくるとの事であり、母校の東北大学は、名誉博士号を授与すると発表した。

「好きな研究をさせて貰っていることに満足している。これからも、一人のエンジニアとして実験を続けていきたい」と、会社に謙虚に感謝する田中さんの飾らぬ人柄と、現場にこだわる研究者根性は、多くの人々の共感を呼んだ。

島津製作所の従業員3 千人強の3 人に1 人は技術職だという。田中氏はインタビューに答えて、「開発した当時『直接製品に結びつくものでなくてもよい。3~5 年後に、光る石となる製品をつくろう』と各研究所員でテーマを決めて、研究所長に持って行き、潤沢な資金を使うことができた」と語っている。

すごい会社である。20 年近く前のことであり、製品寿命が短くなり、研究開発のスピードを重視しなくてはならなくなった今日とは若干事情は異なっているとはいえ、多くの研究者に、基礎研究や中・長期のテーマに腰をすえて取組める環境を、企業ポリシーとして与え続けることの出来る会社は、そう多くはないだろう。

小泉首相は、内閣改造で、不良債権の早期処理の方針を打ち出し、総合的なデフレ対策で、景気に配慮しながら、本格的な経済構造改革に着手する。その道筋はまだ不透明であるが、市場による企業の選別は一段進み、経営環境が厳しさを増すことは間違いない。産業界では、競争力強化のため、企業再編によるコスト削減等が進んでいるが、世界的な価格競争の波に巻き込まれては、企業体質は改善されない。

収益構造を革新するには、同質化競争を避け、特長のある独自の技術開発や、他社にない商品を創る”オンリーワン戦略”をとることであり、顧客満足の高いサービスの提供や、ブランドの確立が求められる。

今回の、景気刺激策の柱の一つである税制改正では、研究開発費の一定率を税額控除することが認められそうだが、メーカーは、研究開発力が勝敗を分けるキーであり、大いに歓迎したい。

今こそ、我々経営者は、徹底した顧客志向に立って、新技術・新サービスの開発・創造につとめ、勇気を持って、経営モデルの革新に取組まねばならない。