甲府市財政再建のために

━━公会計に企業会計原則の導入を





山梨経済同友会
平成11年9月








甲府市財政の再建のために


 甲府市は、約2,200人の職員を雇い、年間約1、500億円の予算をもって、福祉、教育、道路、上下水道等の公共財を提供する一つの経営体である。近年、その財務状況は、悪化の一途を辿り、抱えている負債は、表面上だけでも、2、000億円に近い水準に達している(別添資料参照)。

 株式会社の経営においては、財務の状況は、企業会計原則に則り記述され、株主に開示される。この財務諸表により、株主は会社の経営の健全性について確認し、そして、会社は、そうした株主の信認に応え、経営環境の変化に適切に対応しつつ、企業の繁栄・存続を図る。その対応に失敗した場合、会社は衰退・倒産する。

 言うまでもなく、甲府市における株主は、甲府市の納税者となる。従って、財政再建の第一歩は、甲府市の財務状況につき、納税者に対して、企業会計原則に則って、分かりやすく説明されるところから始まる。

 これまで、甲府市がそうした会計処理を行わなかった制度上の理由は、「地方自治法」が現行の公会計を定めているためということになろう。しかし、底流には、その法の立法趣旨も含めて、「甲府市は倒産しない」、「市議会で議決された予算に沿って執行される事業に間違いはない」という考え方があったと思われる。かつてのNY市の例を引くまでもなく、甲府市といえども財政的に破綻し得る。また、正当性のある市議会の議決も、予算案の是非を判断する際、財務状況の認識が不正確であれば、議決された予算もその妥当性を失い得る。

 政府、地方自治体における財政事情の悪化が進行していく中で、現行の公会計の不備についての関心は急速に高まりつつある。公会計に企業会計原則さえ導入すれば、財政健全化の問題が一気に解決するということではない。ただ、財政再建に取り組むためには、その財政の状況を的確に把握することがまずもって必要である。そうした公会計見直しの必要性については、事態を真剣に憂慮している全国の地方自治体の関係者の間では共通認識となりつつあり、現に一部には、具体的に企業会計の手法を導入した先もある。

 地方自治体の財政の問題は、我々納税者が自分達の問題として直面し、対応していくべきことがらである。財政当局の一部関係者が思い悩み、そして問題を先送りしていくようなことは絶対に避けなければならない。そのためには、問題の所在が一部の財政当局者だけにしか分からないような現行の現金収支表的な会計手法を改め、普遍性の高い企業会計原則に則った手法で公会計を開示していくことが有効と考える。

 以上のような現状認識の下で、我々山梨経済同友会では、甲府市財政当局および甲府市議会の見識と市政運営能力に多大の敬意を払いつつ、下記のような提言を行いたい。これは、現在甲府市が進めていこうとしている「新行政改革大綱」のインフラとも言えるものであり、何よりにも先駆けて早急に実現させておくべきことがらである。


<提 言>

 甲府市財政当局は、まず、平成10年度決算について、企業会計原則に則った財務状況の把握およびその開示(次頁の後注参照)を平成12年度予算編成時期に先駆けて行う。これは、法が定めた現行の公会計の即時廃止を求めるものではなく、あくまでも、甲府市の財政再建のための道具として、現行の公会計と併せて用いればよい性格のものである。従って、甲府市は、山梨県ないし自治省に諮ることなく自主的にこれを行うことができるものと思う。

 また、決算の評価を前提にして次年度の予算を吟味していくという予算編成の本来の姿を定着させていくために、平成11年度決算見通しについても、平成12年度予算編成時期に先駆けて同様の手法で作成することの意義は大きいと思われる。 時間的制約が厳しい中での作業であり、財政事務当局の苦労は想像に難くないが、地方分権を展望した先駆的な仕事として位置づけ、果敢な取り組みを期待したい。

 昨今、言われるところの地方分権の成否は、市町村における知恵と勇気に大きく掛かっている。山梨県の県都として、甲府市が財政再建という仕事を通じて、地方分権の一つの具体的な範を県内の他の市町村に示していくことが強く望まれる。


(注)

   市の財務状況を企業会計原則に則って記述していく際の要点は以下のとおり。

    1. 市当局が保有する固定資産に関して減価償却の会計処理を導入することにより、それらの現存価値とともに、施設竣工後の事業運営費用の実態を明示する。

    2. 記帳の時点に関し発生主義の原則を採用することにより、市当局が抱える債権・債務の実態を明示する。

    3. 一般・特別会計別に資産・負債の状況を示す貸借対照表を作成することにより、市当局が全体として抱える純債務(ないしは純資産)額を明示する。

    4. 一般会計において、所属別のコストおよび年間の合理化効果を明示することにより、市職員のコスト意識の高揚を期する。

    5. 事業特別会計において、一般会計からの赤字相当分の補填額は別途補記することにより、当該事業の損益の実態を明示する。

    6. 一般・特別会計を問わず、新規事業案件に関しては、施行後一定期間、効果の評価を行うことにより、当該予算決定の責任の所在を明確にする。


(資料)
甲 府 市 財 政 の 現 況


1.一般会計における財政の硬直化

━━一般会計における財政の硬直度は、税収等に対する市債元利支払額(公債費)の割合や所謂、経常収支比率(下記注参照)をもって計れる。

━━平成9年度における公債費は78億円と、市税・地方交付税による収入額382億円の約5分の1を費消している。なお、市債の未償還残高は、依然として700億円超の高水準にあり、これは、年間の市税・地方交付税額の2倍に当たる。

━━また、経常収支比率もこのところ上昇の一途を辿っており、その分、政策的予算の編成余地を狭めている。

(決算ベース、単位 億円、%)

  平成3年度(A) 9年度(B) B/A
市税・地方交付税(C) 346 382 110.4
公 債 費(D) 50 78 156.0
市 債 残 高(E) 461 722 156.6
D/C 14.5 20.4 +5.9
E/C 133.2 189.0 +55.8
経常収支比率 65.8 82.2 +16.4

    (注)経常収支比率=経常的経費/経常一般財源


2.事業特別会計の財務状況

━━甲府市では、病院、水道、下水道等の事業特別会計が9会計ある。その予算規模総額は、平成10年度で803億円と一般会計(同668億円)を上回る。
 その9会計の中には、収支の不足を埋めるために一般会計からの補填(繰出金)を受けているほか、事業特別会計独自に、一般会計とは別枠で市債を発行し、事業資金の調達を行っているものもある。そして、その発行残高は、増嵩傾向が改まらず、水準も一般会計による市債残高を凌駕している。

━━事業特別会計の内訳(平成9年度決算)をみると、下水道事業会計における財務状況が最も深刻であり、当該事業会計に関わる市債の未償還残高(753億円)や繰出金(45億円、なお、平成3年度以降9年度までの累計額でみると300億円)は、他の事業特別会計に比べ圧倒的に大きい。

(決算ベース、単位 億円、%)

  平成3年度(A) 9年度(B) B/A
繰 出 金 60 83 138.3
市 債 残 高 867 1,177 135.8










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